執着しなくなることはいいことなのか?

僕は今まである人に極度に執着していた。
しかし、ここ数ヶ月の間で執着がみるみる消えていった。
当初、それは僕にとっても、その人にとっても、
良いことのように思えた。
少なくとも、その人にとっては良いことだろう。
しかし僕にとっては、そうでなかった。


一つの執着が崩れると同時に、あらゆる執着が瓦解してゆき、
心の磁束線が消えてしまったかのような気持ちだ。
ムッシュかまやつの「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」曰く、
「何かにこだわらなくてはだめ」なのである。
たとい、他人を傷つけたとしても、
人が人らしく生きるためには、
何かに強烈にこだわらなくてはいけないのだ。
仏陀は執着を捨てることを説いた。
しかし彼ほど悟ることに執着した人がいただろうか。
執着をすてることに執着してきた人が、
ようやく執着を捨てられたというのは素晴らしい。
しかし、真の執着も知らない若者が、
ふとしたことからあらゆる執着を捨ててしまうと、
そこに残るのはただのくだらない抜け殻だけなのだ。