加藤さん、さようなら。

http://www.asahi.com/national/update/1017/TKY200910170217.html
僕にとって「加藤さん」というのは、
この加藤和彦のことである。
彼はフォークル、ズートルビ、サディスティック・ミカバンド、
カエラバンド、スーパー歌舞伎、和幸などで有名だが、
私はミカバンド直後のヨーロッパ三部作こそが、
加藤さんの音楽と思っている。
それは故安井かずみ氏と夫婦だった時の作品だ。
音楽で小説をやるというのがコンセプトであり、
その作風は明るくも切ない、着いたり離れたりする、
恋人同士の心の機微を魅力たっぷりに、
時に物語仕立てに、時に叙情的に描いている。


安井かずみ氏が亡くなったことについて、
加藤さんはすぐに気持ちを切り替えて新しい恋をした。
このことで安井かずみファンからは大いに叩かれたらしい。
しかし、僕が思うに、そのくらい過激な行動をとらないと、
決別することができなかったのではないだろうか。
そして、また、結局決別し切れなかったのではないか。
加藤さんはその後、ほとんど安井氏との作品について、
言及をしていないのである。


この自殺の直接の理由は分からないが、
ある意味、加藤さんは解放されたのではないだろうか。
そしてまた、加藤さんは永遠に生きているのである。
僕が音楽を聴けば、そこに加藤さんも、安井かずみもいて、
僕に幸せや切なさや明日への希望を教えてくれるのだ。
加藤さんの音楽は過去にも未来にも現在にも、
常に前向きなのである。
だからきっと前向きな自殺であったに違いないのだ。
和幸を以って、やるべき音楽をすべて出来た。
これでやっと自由になれる。
そう考えて、せめてもの慰めにしたい。