半端なエストロゲンでかかってくるな

誰だか分からないのだが、いつもすれ違うと眼をつけてきて、
肩をぶつけようとするチンピラがいる。
「肩をぶつけようとする」というのは、
つまり本当は豪儀に肩をぶつけて「邪魔だ」とか言いたいが、
それができないのでスレスレのところまで来て、
こちらにぶつかってきて欲しそうにするだけなのである。
それが、今日は弱弱しく「どけ」と言って、
私の胸ポケットのあたりを突いていった。
それは非常に緊張した、「頑張ってなんとかやってみました」という
感じの情けないものであるが、
同時に雄としてのマウンティングなのは確かである。


こういうことが高校時代もあったし、
大学時代に海外ツアーに参加したときもあった。
海外の方は傑作だった。
両親と同じくらいの年の男性が、
しきりに自分がいかにあちこち旅行しているかを自慢するのである。
ところが食事のマナーときたらお粗末であり、
楽師にチップを出そうともしない。
本人はそれを真っ当な節約と思って得意満面のところ、
私はヨーロッパの習慣を尊重して出したので、
面目丸つぶれである。
ところが、彼に絶交の復讐の機会を
与えてしまったのは他ならぬ私であった。
すなわち、バスの中で眠ったのである。
元々睡眠時間が不規則で、同じような地形が広がる
3時間ほどのバス移動で眠っていたところ、
男性がニヤニヤ笑いで「眠ってましたね」
(=時差ぼけするなんて旅なれてませんね)
と言ってくるのである。
対抗意識が透けて見えて、奥さんが
「やめなさいよ」
と必死の小声で静止するのだが、なおさらニヤニヤして、
「いいから、いいから」
と小声で返すのだ。
このときルイス キャロル氏のチェシャ猫が
決して好意のキャラクターではなく、
こういうニヤニヤ笑いの卑しさを揶揄したのだと悟った。


この2者に共通するのは
「よもや殴りかかってはこまい」
という情けない打算の上で私に絡んでくる点である。
これは実に執拗で、なんとか自分の虚栄心を満たすまで、
しつこくやってくる。
紳士諸君は普段、我慢してやり過ごしていることと思うが、
ある時、突然爆発するよりは、
常日頃から一発怒鳴って蹴散らす程度は
しておいた方がよろしいのではないか?
少なくとも私は、もう不必要に我慢するのはやめる。
正当防衛のため怒鳴るだけなら、
まず罪にはなりえないし、相手にも良いお灸である。
ストレスも発散できて、むしろ楽しむべきだ。
「うるさい」とか「邪魔だ」と、
はっきりどっしり言えば、
さすがにそれ以上追及する根性はないはずである。