無一物

僕の父方の祖父は物質に執着しないことを説いた。
それを自ら体現した。
法廷で争えば容易に取り返せる不動産を、
あっさり占有者にくれてやった。


僕の父は人を赦せない。
僕もまた人を糾弾する。


人に不動産をくれてやった祖父は、
その相手を赦したのだろうか。
それとも自らの心の平生のために、
些細なことを水に流しただけなのだろうか。