耳をすますと

聞こえてくる、絶望の音が。


映画「耳をすませば」は今や若者の青春ストーリーの定番。
一昔前の若大将シリーズなどに比べると、
本の虫の少女と読書マニア兼バイオリニストの美少年との、
文学恋愛というのは時代も変わったという感。
従来的なヒーロー像から言えば、
杉村が相手役なわけだが、
ここの構造を匂わせつつ、全く現代的な
文科系的リア充空間が構築されている。


この作品、私は小学校5年生の時分に友人と見に行った。
もっと言えば一種のダブルデートであった。
今思うと、そうだったのだ。
全く恥ずかしい限りだが、結局、
「お前さ、コンクリートロードはやめたほうがいいと思うよ」
「やなやつ、やなやつ、やなやつ」
というのが心のどこかに刻まれてしまっている気がする。


当時は名作とは思わなかった。
むしろ「魔女の宅急便」と同様に、
宮崎氏が後輩を育てるために作った原作物シリーズかと、
少し下に見ていた。
しかし、今考えてみると、名優、露口茂
グラナダのシャーロックホームズシリーズの吹き替えが有名)
も含めて、名作と言わざるを得ない。
すなわち、現代の若者の心が余すところなく反映されている。
自負心、劣等感、恋愛、恋愛している自分に呆れる自分、
その恋愛に心を捕われている自分、
とにかく「自分」が中心にあるのが現代人である。
そして最後の結婚の件というのが極め付けである。
つまり、自分中心の個人主義者が人とつながるには、
結婚という古来からの契約が改めて必要になるのである。
したがって、現代人が先祖代々の伝統を無視しているか
というと、逆に必然として先祖帰りする場合もあるのだ。
そこが非常に面白い。
ただ、面白いとばかり言っていられないのは、
私自身もそうした現代青少年の一人ということである。