僕はドライだぜ。

僕は自分をドライな人間だと決め付けたい。
つまり冷淡で、恋愛などの情動には振り回されず、
常に自分を制御しているつもりでいるということだ。


しかし、そういう人間に限って、
人一倍情緒を求めるのである。
そんな僕が一押しなのが
いつか読書する日」という映画だ。
これは一風変わっている。
学生時代に付き合っていた二人が別れて、
中年になっても狭い地方都市で
紙一重隔てて生活し続けて、
実は二人の心は愛し合い続けていたというのが、
主題である。
副題として老文学者の地方も描いていて、
実に珍妙だ。


しかしその珍妙さが僕は一等好きだ。
音楽とあいまって、地方都市のゆっくりとした時間の流れと、
言い知れない人々の不安感と落ち着きの
入り乱れた生活感が伝わってくる。
二人は最後に結ばれるのだが、
陽炎の如くあっという間に蜜月は終わってしまう。


作中の台詞で私を捉えて離さないのは
「あなたはね、ずっと気持ちをね、殺してきたのよ。
気持ちを殺すって、周りの気持ちも、
殺すことなんだからね。」
という件がある。
なんでか頭から離れないのは、
自分が責められているように思っているからだろう。
しかし、気持ちを殺さずに、
一体どうしたらいいのか全く見当もつかないような、
そういう時にどうしても相手のために
ということができないのである。
それが却って自分を苦しめることになるのだが、
だからといってどうこうできるということでも
ないというのが辛い。